日本のIT技術者はもういらない?
2011/04/18
宗像 誠之=日経コンピュータ
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NTTデータは現状比1割増の1万人超、日立製作所が同2倍超の6000人、富士通も同2倍超の5000人――。これは数年後、国内ITベンダーが抱えるようになるインド拠点におけるIT技術者の数だ。米ガートナーの予測では2014年まで、日本のITサービス市場の成長率は円建てで年平均0.8%。世界で最低の伸びと予測されている。一方で新興国の同市場は年平均10~11%の高成長が続く。旺盛なIT投資が見込まれる海外市場の攻略や海外拠点へのITサービスの拡充には、技術力が高く賃金が安いインドのIT技術者の確保が重要になっている。
既に米IBMや米ヒューレット・パッカード、米アクセンチュアといった米ITベンダーがインド拠点に抱える技術者はそれぞれ6万~8万人。日本のユーザー企業がグローバル展開を加速させるなか、国内ベンダーも遅ればせながらインド拠点の人員数を急激に増やし、海外の顧客へのITサービスを拡充しようとしているわけだ。
ここで気になるのは、インドや中国といったオフショアに仕事が流れる一方で、日本のIT技術者の雇用は今後どうなるのだろうかという点だ。東日本大震災の発生により日本の産業構造の見直しやサプライチェーン再構築の必要性が指摘されるなか、大手に下請けが積み重なる「ゼネコンモデル」を維持してきた国内IT業界も抜本的な構造改革が避けられなくなっている。
「ITゼネコンの維持は無理」
「オフショアの拡大で国内ITサービス市場の雇用吸収力は確実に減る。ITゼネコンモデルの維持もできなくなる」とガートナージャパンの足立祐子リサーチ部門ソーシングリサーチディレクターは断言する。同社の推計では中国・インドなどの人員を使ったシステム開発・運用のオフショアリングは今後も増え続ける。国内からオフショアへの発注規模の実績は2009年で3588億円。この数字は、「いずれ現在の日本のITサービス市場の1割相当となる1兆円規模に膨らむ可能性がある」(足立リサーチディレクター)という。海外へ仕事が流れ、国内の下請けシステム会社の業務は減り、ITサービス業界で必要となる人員も減っていくわけだ。
既にユーザー企業やITベンダーでも国内人材の雇用問題が顕在化しつつある。
オフショア開発の発注拡大に口ごもるユーザー企業
「オフショア開発は大幅に増やしたいと思う。しかしいつまでにどのくらいの発注規模にするかは明確に答えにくい」。ある大手電機メーカーで情報システムやITインフラを統括する幹部は、オフショアへの発注規模拡大について聞くとこう答えた。
同社はインドや中国などに、オフショア開発を統括するセンターを自前で構築している。自社で開発要員を抱えつつ、需要に応じて現地企業へも外注し、開発体制を柔軟に調整できるようにしている。
オフショアの人員数や発注規模を増やすつもりだが明確に答えられないのは、「時期や数字を明言してしまうと、国内のシステム要員や開発・運用の外注先から『我々の仕事は海外に行ってしまうのか?』と問い合わせが来るなど、思わぬ波紋を呼んで大騒ぎになる」(同幹部)というのが理由だ。しかし同企業は、日本で運用していた基幹システムを徐々に海外のデータセンターに移管しつつある。いずれ、大部分の新規開発や保守・運用を海外やオフショアで手がける方が現実的となりつつある。
外資系ITベンダーに基幹システムの開発・運用を全面アウトソーシングしたある大手製造業も、国内IT人材の雇用維持に悩んだ。欧米やアジアなど世界の主要エリアごとに構築しているシステム運用などをアウトソーシングし、ITガバナンスの統一も図った。これまで海外拠点それぞれで手がけていたシステム運用の仕事はインドへ移管。その過程で、海外拠点に自前で抱えていたIT人材をリストラして減らしたという。「そうしないとアウトソーシングした意味がなく、IT関連のコストは下がらない」と同社幹部は話す。
一方で、雇用を柔軟に調整できない日本ではそうはいかなかった。経営を理解しつつIT戦略を考えられるIT人材として育成することにしたり、別の部署に配置転換したりして対応することにしたという。
「日本での定期的な新規雇用は見直すべきか」
ITベンダーも同様の課題を抱えつつある。
「このまま毎年、新入社員も含め日本人の新規採用を定期的に実施するのは経営リスクになるかもしれない」。複数の海外企業の買収を手がけてきた国内ベンダー大手の幹部はこう問題意識を打ち明ける。同社は景況感やIT投資の状況をみながら、傘下の海外グループ企業でリストラを実施してきた。「欧米では雇用を調整できる土壌があり、他のセクターがこうした人員を吸収する。しかし日本の雇用関係は世界一と言っていいくらい硬直的。このまま毎年数百人の日本人社員を新規採用するべきか見直すべきか悩ましい」(同幹部)という。日本のユーザー企業のIT投資も海外へ向かうことが多くなり、ITサービス市場も大きく伸びるのは海外市場だ。「インドでの人員はまだまだ増やす必要があるが、日本の人員はそこまで増やさなくていいのかもしれない」(同幹部)。
別の大手ITベンダーも国内人員の扱いについて課題を持つ。同社は複数のシステム会社を合併してきたが、その過程で膨らんだ日本国内での人員をどう活用していくかを模索中だ。「海外事業の強化を次の成長戦略に据える中で、再編で増えた国内の人員をどうにかして減らせないか検討したことがある」と同社幹部は振り返る。
筆者は日経コンピュータの4月14日号で「ITサービス68兆円市場争奪戦、世界で国内ベンダーに勝機はあるか」という特集を執筆した。国内ベンダーや米ITベンダー、そしてインドITベンダーが、海外展開する日本の顧客を貪欲に獲得していこうとする各社の戦略を取り上げた。
同特集では触れなかったものの今回の取材を通じ、ユーザー企業やITベンダーのグローバル化と国内IT業界の雇用問題が表裏一体の関係にあることを改めて思い知らされた。ユーザー企業やベンダーが生き残るために育成すべきIT人材とは、そしてグローバル化の時代でも必要とされるIT人材の姿はどうあるべきか――。これはユーザーやベンダーを問わず各社の経営に直結する話であり、IT業界に従事する関係者が今後直面する課題でもある。次はこのテーマを日経コンピュータの特集で追ってみようと考えている。